1995年製のPaul Reed Smith(PRS)McCartyモデルは、ただの古いギターではありません。
ギブソンの黄金時代を築いた伝説的な人物、テッド・マッカーティ氏の名を冠し、PRSがヴィンテージサウンドへの深い敬意を込めて世に送り出した、歴史的な一本です。
90年代という特別な時代に生まれたこのギターは、現行モデルとは一味違う、独特のオーラとサウンドを放っています。
この記事では、1995 prs mccartyの魅力の核心に迫ります。
モデルの成り立ちである「PRS McCartyとは」という基本的な部分から、90年代初期モデルならではのスペック、象徴的な「ムーンインレイ」の仕様、そして市場で囁かれる「当たり年」の評価や「偽物の見分け方」まで、あらゆる角度から徹底的に解説します。
最高峰ラインである「プライベートストック」との違いにも触れながら、このギターが持つ真の価値を解き明かしていきましょう。
1995年製PRS McCartyの歴史的背景と特徴
そもそもPRS McCartyとは何か
PRS McCartyモデルは、一言で表すならば「ヴィンテージギターへの回帰と敬意」を形にしたギターです。
このモデルが特別なのは、その名前に由来があります。
「McCarty」とは、1950年代から60年代にかけてギブソン社の社長を務め、レスポールやES-335、フライングV、そしてハムバッカーピックアップやチューン・オー・マチックブリッジの開発を主導した伝説の人物、テッド・マッカーティ氏のことです。
PRSの創設者であるポール・リード・スミス氏は、自身のギター製作における師としてマッカーティ氏を深く尊敬していました。
80年代後半、ポール氏はマッカーティ氏をコンサルタントとして招き、ギター製作の哲学やヴィンテージ楽器の秘密について多くのアドバイスを受けました。
その共同作業の集大成として1994年に誕生したのが、このMcCartyモデルなのです。
言ってしまえば、PRSがモダンなギターブランドとして確立した中で、あえてギブソンの黄金時代の設計思想を取り入れた、異色かつ意欲的なモデルと言えます。
具体的には、PRSの標準的なモデルよりも少し厚いマホガニーバック、ヴィンテージフィールを持つネックシェイプ、そして専用に開発された「McCarty」ピックアップなど、随所にその影響が見られます。
これにより、Custom 24などのモダンなモデルとは一線を画す、より太く、暖かく、そして粘りのある「歌うような」トーンを実現しました。
PRS McCartyは、単なる一つのモデル名ではなく、PRSの歴史における重要なターニングポイントであり、ヴィンテージギターへの愛が込められた特別な存在なのです。
PRS初期モデルとしての位置づけ
1994年に発表されたMcCartyモデルは、PRSの歴史において「第二章の幕開け」を告げる重要な初期モデルとして位置づけられています。
1985年の創業以来、PRSはCustomモデル(後のCustom 24)を筆頭に、美しいフィギュアドメイプルトップと優れた演奏性、そしてモダンなサウンドで、新世代のギターブランドとしての地位を確立しました。
しかし、90年代に入ると、ポール・リード・スミス氏の関心は、ブランドのルーツとも言えるヴィンテージギターのサウンドへと向かいます。
その流れの中で、まず1993年に22フレット仕様の「Custom 22」が登場し、よりトラディショナルなサウンドへのアプローチが始まりました。
そして、その流れを決定づけたのが、翌1994年に発表されたMcCartyモデルです。
これは、PRSが単にモダンなギターを作るだけでなく、エレキギターの歴史そのものに敬意を払い、ヴィンテージ市場にも本格的に挑戦する意志を明確に示した出来事でした。
創業から約10年が経過し、ブランドとして成熟期に入ったPRSが、次なるステップとして選んだのが「過去への探求」だったのです。
McCartyモデルは、その象徴と言えるでしょう。
特に初期の個体には、ヘッドストックの裏に「McCarty Model」と表記されているなど、後年のモデルにはない特徴が見られます。
このように、PRS McCartyは単なるバリエーションモデルではなく、PRSがブランドのアイデンティティをさらに深化させるために生み出した、歴史的な意味を持つ初期モデルなのです。
特徴的なPRS 90年代のスペック
90年代、特にその初期から中期にかけて製造されたPRSギターは、現行モデルとは異なる独特のスペックと魅力を持っており、多くのファンから特別な評価を受けています。
この時代のMcCartyモデルも例外ではなく、そのスペックにはヴィンテージライクな思想が色濃く反映されています。
まず、ボディ構造に特徴があります。
当時のMcCartyは、現行のPRSモデルと比較してバックのマホガニー材が1/8インチ(約3.175mm)厚く設計されていました。
このわずかな差が、サウンドに大きな影響を与え、より豊かで深みのある低中域と、長いサスティーンを生み出す要因となっています。
ネックシェイプは「Wide Fat」が主流で、その名の通り幅広で厚みのある握り心地は、サウンドの太さや安定したプレイアビリティに貢献していました。
また、90年代はPRSが生産体制を確立していく過渡期でもありました。
1995年にはCNC(コンピュータ数値制御)マシンが導入されますが、それ以前や導入初期のモデルには、より多くの手作業による工程が含まれており、それが一本一本の個性に繋がっているとも言われています。
木材に関しても、現在では希少となった質の高いイーストコーストメイプルなどがトップ材に使用されることもあり、見た目の美しさだけでなく、音響特性の面でも高く評価されています。
ここでは、90年代のMcCartyと現行の代表的なMcCarty 594のスペックを比較してみましょう。
スペック項目 | 1995年頃のMcCarty | 現行McCarty 594 |
ボディ厚 | 1/8インチ厚いマホガニーバック | さらに厚い専用設計 |
スケール | 25インチ | 24.594インチ(ヴィンテージスケール) |
ピックアップ | McCarty Treble / Bass | 58/15 LT |
ブリッジ | PRS Stoptail(一体型ラップアラウンド) | PRS Two-Piece(2ピース) |
ペグ | ヴィンテージスタイル・クルーソンタイプ | Phase III ロッキングチューナー |
ネックシェイプ | Wide Fat | Pattern Vintage |
コントロール | 1Vol, 1Tone(Push/Pull Coil-Tap) | 2Vol, 2Tone(Push/Pull Coil-Tap) |
このように、90年代のスペックは、ヴィンテージへのリスペクトを示しつつも、PRS独自の25インチスケールを採用するなど、後のモデルとは異なる独特のバランスの上に成り立っていたことがわかります。
希少なPRSムーンインレイの仕様
現在のPRSギターの指板を飾るインレイといえば、鳥が舞う優雅な「バードインレイ」が最も象徴的です。
しかし、ブランドの歴史を紐解くと、もう一つの重要なインレイ、「ムーンインレイ」の存在が浮かび上がります。
特に1995年頃のMcCartyモデルにおいて、このムーンインレイは決して珍しいものではなく、むしろ標準的な仕様の一つでした。
ムーンインレイは、三日月の形を模したシンプルなドットタイプのインレイで、バードインレイに比べて控えめで落ち着いた印象を与えます。
なぜ、今やPRSの代名詞とも言えるバードインレイが標準ではなかったのでしょうか。
その理由は、バードインレイが当時、非常に手間のかかる高価なオプション仕様だったからです。
アバロンなどの貝を精巧に切り出して埋め込む作業はコストがかかり、全てのモデルに標準搭載することは難しかったのです。
そのため、Customモデルなどの上位機種であっても、オプションを選択しない場合はムーンインレイが採用されることが多く、McCartyやStandardといったモデルでは、ムーンインレイがごく一般的な仕様でした。
しかし、時を経てその評価は変化します。
現在では、華やかなバードインレイが標準仕様となったモデルがほとんどであるため、逆に初期モデルに見られるシンプルなムーンインレイ仕様のギターに、通好みで玄人向けの魅力を感じるファンが増えているのです。
「派手さはないが、それがかえってギター本体の木材の美しさを引き立てる」といった声や、「初期PRSの息吹を感じられる」といった理由から、あえてムーンインレイの個体を探すプレイヤーも少なくありません。
1995年製のMcCartyに見られるムーンインレイは、単なる廉価版の証ではなく、その時代のPRSの姿を今に伝える、希少で味わい深い仕様と言えるでしょう。
1995年製PRS McCartyの仕様と市場での評価
PRS McCarty 1995年モデルの詳細
1995年という年は、PRS McCartyモデルにとって非常に重要な意味を持つ年です。
前年の1994年にデビューしたばかりのこのモデルが、市場でその地位を固め始め、さらにラインナップの拡充も行われた記念すべき年だからです。
この年のMcCartyモデルの仕様は、まさに「初期衝動と安定期の融合」と言えるでしょう。
まず基本的なスペックとして、ボディは美しいアーチを持つメイプルトップに、前述の通り通常より厚いマホガニーバックという組み合わせが採用されています。
インプットしたデータベースにある「’95 McCarty -Black Cherry-」の個体情報からもわかるように、この頃には当初の2色展開から、ブラックチェリーのような鮮やかなカラーも登場し始めていました。
ネックはマホガニー製で、指板にはローズウッドが使用されています。
スケールはPRSの標準である25インチ、フレット数は22、ネックシェイプは握りごたえのある「Wide Fat」が基本でした。
そして、指板にはオプションのバードインレイではなく、標準の「ムーンインレイ」が施されている個体が多く見られます。
心臓部であるピックアップには、このモデルのために専用開発された「McCarty Treble」と「McCarty Bass」を搭載。
コントロールは1ボリューム、1プッシュ/プル・トーン(コイルタップ機能付き)、そして3ウェイ・トグル・ピックアップセレクターという、シンプルで実践的な構成です。
また、1995年はPRSにとって生産体制の転換期でもありました。
この年にCNCマシンが本格導入されたことで、製品の品質がより安定しましたが、1995年製の個体には、それ以前のハンドメイドに近い工程の雰囲気がまだ色濃く残っているとされています。
さらに特筆すべきは、この年にオールマホガニーボディの「McCarty Standard」がラインナップに加わったことです。
これにより、McCartyシリーズはメイプルトップモデルとマホガニー単板モデルという2つの選択肢を持つことになり、より多くのギタリストのニーズに応えるシリーズへと発展しました。
1995年製PRS McCartyは、こうした歴史的背景と魅力的なスペックを併せ持った、ヴィンテージ市場でも特に注目すべき一本なのです。
PRSの「当たり年」という評価について
ヴィンテージギターの世界では、しばしば「当たり年」という言葉が使われます。
これは、特定の製造年のモデルが、木材の質や作り、サウンドの面で特に優れていると評価される現象です。
PRSにおいても、この「当たり年」についての議論はファンの間で活発に行われており、中でも90年代、特に創業初期から中期にかけての期間は、その最右翼として挙げられることが少なくありません。
では、なぜ90年代、そして1995年頃のPRSが「当たり」だと評価されるのでしょうか。
理由の一つとして、木材の質が挙げられます。
当時は現在と比較して、良質でシーズニング(乾燥)が十分に行われた木材が、まだ豊富に入手可能だった時代です。
特にボディトップに使われるメイプル材や、指板のローズウッドなどは、現行品とは異なる鳴りを持つと言われています。
二つ目の理由として、製作工程の違いが考えられます。
前述の通り、90年代はPRSが生産規模を拡大していく過渡期であり、まだ手作業による工程が多く残されていました。
熟練した職人の手による丁寧な組み込みや仕上げが、ギター一本一本に独特の響きと個性をもたらしたと考えられています。
サウンド面では、この時代のPRSは現行モデルに比べて「より野太く、オーガニックで、粘りのある」と表現されることが多いです。
これが、ヴィンテージライクなトーンを求めるプレイヤーにとって大きな魅力となっています。
しかし、ここで注意すべき点もあります。
「当たり年」という評価は、あくまで全体的な傾向であり、全ての個体に当てはまるわけではありません。
ギターは木材という自然素材から作られるため、同じ年の同じモデルであっても必ず個体差は存在します。
また、2000年以降のモデルが劣っているわけでは決してなく、むしろ製造技術の向上により、品質はより安定し、サウンドのバリエーションも豊かになっています。
結論として、90年代、特に1995年頃のPRS McCartyは「当たり」と評価される要素を多く含んでいますが、最終的な判断は年代という情報だけに頼るべきではありません。
必ず自身の耳でサウンドを確かめ、手で弾き心地を確認することが、最高のパートナーと出会うための最も重要なプロセスと言えるでしょう。
購入時に役立つPRSの偽物の見分け方
PRSは世界的に人気の高いギターブランドであるため、残念ながら市場には巧妙に作られた偽物が存在します。
特に1995年製McCartyのような価値のあるヴィンテージモデルを探す際には、偽物を掴まされないよう、細心の注意を払う必要があります。
ここでは、購入前に確認すべき偽物の見分け方のポイントをいくつか紹介します。
ヘッドストックのロゴと形状
本物のPRSのヘッドには、ポール・リード・スミス氏のサインがインレイで施されています。
このサインの書体やインレイの質をよく確認してください。
偽物は書体が微妙に違ったり、インレイが安っぽいプラスチックであったりすることがあります。
また、ヘッド全体の形状や厚み、ペグが取り付けられている面の角度なども、モデルごとに決まっているので、違和感がないかチェックしましょう。
シリアルナンバーの形式と場所
PRSのシリアルナンバーは、ギターの製造年を特定するための重要な情報です。
1995年製であれば、シリアルナンバーの最初の数字は「5」になります。
このナンバーは通常、ヘッドストックの裏側に直接、押し込むようにして刻印(プレス)されています。
偽物の中には、プリントされていたり、ネックプレートに刻まれていたりするケースもあるため、刻印の方式と場所は必ず確認してください。
ハードウェアの刻印と品質
ブリッジやペグといった金属パーツも重要なチェックポイントです。
本物のPRS製ハードウェアには、多くの場合「PRS」のロゴが刻印されています。
McCartyモデルであれば、ペグはクルーソン・ヴィンテージスタイル、ブリッジはPRS Stoptailが基本です。
これらのパーツの作りやメッキの質が、明らかに安っぽくないかを確認しましょう。
インレイの質と形状
前述のムーンインレイやバードインレイも、偽物を見分ける手がかりになります。
インレイの素材が白蝶貝やアバロンなどの美しい貝であるか、それともただのプラスチックであるかを確認します。
また、指板の木材との間に隙間があったり、形状がいびつだったりする場合も注意が必要です。
全体的な作りと塗装
最後に、ギター全体の品質を確認します。
PRSのギターは、美しいフィギュアドメイプルのトップが特徴ですが、偽物の中には木目をプリントした「トラ杢風シート」を貼っているだけのものもあります。
光の当たる角度を変えてみて、木目が立体的に見えるかを確認しましょう。
塗装の質や、ネックとボディの接合部の仕上げなども、本物と偽物ではクオリティに大きな差が出やすい部分です。
最も確実な方法は、信頼できる実績のある楽器店で購入することです。
個人間取引やオークションサイトを利用する際は、これらのポイントを念入りにチェックし、少しでも疑問に思ったら専門家や楽器店に相談することをお勧めします。
最高峰PRSプライベートストックとの比較
PRSの世界を語る上で、避けて通れないのが最高峰ラインである「Private Stock(プライベートストック)」の存在です。
1996年に正式にスタートしたこのプログラムは、PRSが持つ技術と最高級の木材を惜しみなく投入し、顧客の要望に応じて究極の一本を製作するカスタムオーダー部門です。
では、1995年製のMcCartyのようなレギュラーモデル(Coreライン)と、プライベートストックにはどのような違いがあるのでしょうか。
まず、そのコンセプトが根本的に異なります。
1995年製McCartyは、ヴィンテージ志向という明確なコンセプトの下で、ある程度の本数を生産することを前提に設計された「量産モデル」です。
もちろん、その品質は非常に高いものですが、あくまでPRSというブランドの思想を多くの人に届けるための製品です。
一方、プライベートストックは「その一本だけの」ワンオフ・メンタリティで製作される「作品」と言えます。
「もし自分がプライベートでギターを作るなら、どんな材を使い、どんな仕様にするか」というポール・リード・スミス氏の思想が原点であり、採算性は二の次で理想が追求されます。
使用される木材のグレードも全く異なります。
プライベートストックでは、PRSが保有する膨大な木材のストックの中から、音響特性、重量、そして何よりも見た目の美しさにおいて、選び抜かれた最高級の「プライベートストック・グレード」の材のみが使用されます。
これは、レギュラーモデルの上位オプションである「10-Top」や「アーティスト・グレード」をさらに超越する品質です。
また、カスタマイズの自由度も大きな違いです。
レギュラーモデルは基本的に仕様が決まっていますが、プライベートストックでは、木材の組み合わせからインレイのデザイン、カラーリングに至るまで、あらゆる要素をオーナーの好みに合わせてオーダーすることが可能です。
価格面では、当然ながらプライベートストックは非常に高価で、レギュラーモデルの数倍から、時には数十倍の値がつくことも珍しくありません。
しかし、これはどちらが優れているかという話ではありません。
1995年製McCartyには、その時代だからこそ生まれた歴史的な価値と、多くのギタリストに愛されたスタンダードとしての魅力があります。
対してプライベートストックは、オーナーの夢を形にした、美術品のような価値を持つ究極のパーソナルな一本です。
両者は、PRSというブランドが持つ二つの側面、すなわち「優れた量産楽器メーカー」としての一面と、「究極のカスタムビルダー」としての一面をそれぞれ象徴していると言えるでしょう。
まとめ:1995年製PRS McCartyは歴史的価値とサウンドを兼ね備えた逸品
- PRS McCartyはギブソンの伝説的人物テッド・マッカーティ氏との共同開発で誕生
- 1994年に発表され、PRSのヴィンテージ市場へのアプローチを示す初期モデルである
- 1995年製はデビュー翌年にあたり、初期仕様を色濃く残す
- ボディが厚く、ファットで粘りのある90年代特有のサウンドが特徴
- バードインレイではなく、シンプルなムーンインレイが標準的な仕様であった
- 90年代のPRSは木材の質などから「当たり年」と評価されることが多い
- ただし個体差も大きく、年代だけで判断せず試奏が不可欠
- 偽物も存在するため、ロゴやシリアル、ハードウェアの確認が重要
- プライベートストックは究極のカスタムオーダー品であり、コンセプトが異なる
- 1995年製McCartyは、歴史的背景と実践的なサウンドを求めるギタリストにおすすめ