アコースティックギターを選んでいると、ボディの一部がえぐれた「カッタウェイ」という独特の形状が目に入りますよね。
スタイリッシュで格好良いという印象を持つ一方で、この形は本当に必要なのか、特にデメリットはないのか、と疑問に思う方も少なくないでしょう。
特に、アコギの命ともいえる「生音」への影響は気になるところです。
また、カッタウェイがあると価格が高くなるという話も耳にします。
この記事では、アコギのカッタウェイは本当にいらないのか、という疑問に答えるため、その構造からノンカッタウェイとの違い、音に関するデメリット、そしてソロギターのような特定の演奏スタイルでの必要性まで、あらゆる角度から詳しく解説していきます。
この記事を読み終える頃には、あなたのギター選びにおけるカッタウェイの有無の判断基準が明確になり、後悔しない一本を見つける手助けとなるはずです。
アコギのカッタウェイはいらない?考えられるデメリット

アコギのカッタウェイとは?基本的な構造
アコースティックギターにおける「カッタウェイ」とは、ボディのネック寄りの部分が、片側だけえぐり取られたような形状のことを指します。
この名称は、英語の「cut away(切り取る)」という言葉がそのまま由来となっています。
この特徴的な形状が採用される主な目的は、演奏性の向上にあります。
具体的には、ギターのハイポジション、つまりボディに近い高音域のフレットを左手で押さえやすくするために設計されました。
通常のアコギでは、構造上14フレットあたりまでが演奏の限界となることが多いですが、カッタウェイがあることで、20フレット付近までスムーズに指が届くようになります。
これにより、演奏できる音域が広がり、より多彩な音楽表現が可能になるのです。
カッタウェイには、大きく分けて2つの種類が存在します。
一つは、先端が丸みを帯びた「ラウンデッドカッタウェイ」です。
現在主流となっている形状で、Taylor(テイラー)やMartin(マーティン)といった多くの有名ブランドで採用されており、優しく柔らかな印象を与えます。
もう一つは、先端が鋭く尖った「ポインテッドカッタウェイ」です。
Gibson(ギブソン)の一部の古いモデルなどで見られ、シャープで攻撃的なルックスが特徴的です。
このように、カッタウェイは単なるデザインではなく、ギタリストの表現の幅を広げるための機能的な意味合いを持つ、重要なボディ形状の一つといえるでしょう。
ノンカッタウェイとのアコギ カッタウェイの見た目の違い
アコギのカッタウェイモデルと、カッタウェイがない「ノンカッタウェイ」モデルとの最も明白な違いは、そのボディ形状と、それによってもたらされる演奏性、そして見た目の印象にあります。
この違いを理解することは、自分の演奏スタイルや好みに合ったギターを選ぶ上で非常に重要です。
項目 | カッタウェイ | ノンカッタウェイ |
ボディ形状 | ボディ上部の片側がえぐられている | 左右対称で伝統的なひょうたん型 |
演奏性 | ハイポジション(高音域)が弾きやすい | ハイポジションの演奏に制限がある |
見た目の印象 | モダン、スタイリッシュ、シャープ | トラディショナル、オーソドックス、温かみ |
主な用途 | ソロギター、フィンガースタイル、リードプレイ | 弾き語り、ストローク、トラディショナルなフォーク |
ノンカッタウェイのギターは、マーティンのD-28やギブソンのJ-45に代表されるように、左右対称の美しい曲線を描く、いわゆる「ひょうたん型」をしています。
この形状はアコースティックギターの原型ともいえ、古くから多くのミュージシャンに愛されてきました。
その佇まいは、どこか温かみがあり、伝統的でオーセンティックな雰囲気を醸し出します。
一方、カッタウェイモデルは、その非対称な形状からモダンでスタイリッシュな印象を与えます。
特にくびれの深いボディシェイプを持つテイラーのギターなどは、カッタウェイのデザインと相まって非常に洗練されたルックスをしています。
エレキギターからの持ち替えを考えるプレイヤーにとっても、カッタウェイのある形状は馴染みやすく、演奏感の面でも違和感が少ないかもしれません。
言ってしまえば、どちらが優れているという話ではなく、これは完全に好みの問題です。
伝統的なアコギのフォルムに美しさを感じるか、それとも現代的で機能的なデザインに魅力を感じるか。
自分がギターを抱えた時に「格好いい」と思える方を選ぶことが、楽器への愛着を深め、練習を続けるモチベーションにも繋がるのです。
アコギの「カッタウェイ」が持つデメリットとは
カッタウェイのギターには演奏性の向上という明確なメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
「カッタウェイはいらない」と考える人々が指摘する点は、主にこのデメリットに起因しています。
生の響きが理論上は劣る
最も大きなデメリットとして挙げられるのが、生音への影響です。
アコースティックギターは、ボディという空洞(共鳴室)の中で弦の振動を増幅させて音を鳴らす楽器です。
そのため、ボディの容積が大きいほど、豊かで大きな音量、特に深みのある低音が出やすくなります。
カッタウェイはボディの一部を削り取る加工なので、当然ながらノンカッタウェイのモデルと比較してボディの容積がわずかに減少します。
このため、理論上は音量や音の響き、特に低音域の豊かさが若干損なわれる可能性があるのです。
価格が少し高くなる傾向がある
もう一つのデメリットは、価格面です。
カッタウェイの加工には、ノンカッタウェイのギターを製造する工程に加えて、ボディを切り欠き、その部分を補強し、美しく仕上げるという追加の手間と時間が必要になります。
この追加工数が製造コストに反映されるため、同じシリーズ、同じ木材を使ったモデルで比較した場合、カッタウェイ付きのモデルの方がノンカッタウェイのモデルよりも価格が5%~10%ほど高くなるのが一般的です。
予算に限りがある中でギターを選ぶ際には、この価格差は無視できない要素となるでしょう。
構造的な剛性がわずかに落ちる
ボディの一部を削り取るということは、構造的な強度、つまり剛性がわずかに低下することも意味します。
細く尖った部分ができるため、ぶつけたり倒したりした際の耐久性は、ノンカッタウェイのモデルに比べて若干劣ると言わざるを得ません。
もちろん、通常の使用方法で簡単に壊れることはありませんが、楽器を叩いてリズムを出すような「スラム奏法」を多用する場合など、ボディに強い衝撃を与える奏法にはあまり向いていない側面もあります。
これらのデメリットを理解した上で、自分にとってカッタウェイのメリットがそれを上回るかどうかを判断することが重要になります。
気になるアコギのカッタウェイによる音への影響
カッタウェイのデメリットとして「生音が理論上は劣る」という点を挙げましたが、これが実際にどの程度の影響を及ぼすのかは、最も気になるところでしょう。
結論から言うと、カッタウェイの有無による音の違いは、ほとんどの人が聴き分けられないほど微々たるものです。
アコースティックギターの音色というものは、カッタウェイの有無という単一の要素だけで決まるわけではありません。
むしろ、音に与える影響力は、他の要素の方が圧倒的に大きいのです。
音を決める主な要因
- トップ材(表板)の種類(スプルース、シダーなど)と品質(単板か合板か)
- サイド&バック材の種類(ローズウッド、マホガニー、メイプルなど)
- ボディ内部の補強材であるブレーシングの設計
- ボディのサイズと形状(ドレッドノート、オーディトリアムなど)
- ギターメーカーごとの設計思想や製造技術
これらの要素が複雑に絡み合い、そのギター固有のサウンドを生み出しています。
例えば、ある記事の筆者は、カッタウェイ付きの「Taylor 814ce」とノンカッタウェイの「Gibson J-45」を所有しているそうですが、生音の音量や響きの豊かさは、明らかに「Taylor 814ce」の方が上だと述べています。
これは、カッタウェイがあるから音が小さい、ないから大きい、という単純な話ではないことを示す好例です。
ギターの設計や使用されている木材のグレード、メーカーの目指すサウンドの方向性などが、音色に対してより支配的な影響力を持っているのです。
したがって、「カッタウェイだから音が悪い」と判断するのは早計です。
全く同じモデル、同じグレードの木材でカッタウェイの有無を比較すれば、わずかな差は生じるかもしれません。
しかし、それは楽器店で弾き比べても判別が難しいレベルの差であり、演奏を楽しむ上で気になるようなものではほとんどありません。
もしあなたが音質を最優先に考えるのであれば、カッタウェイの有無を気にするよりも、むしろ予算内でどのような木材が使われているか(特にトップ材が単板であるか)、そして実際に試奏して自分の好みの音がするかどうかを基準に選ぶ方が、はるかに満足のいく結果を得られるでしょう。
デメリットを知ってもアコギのカッタウェイはいらない?

それでもアコギにカッタウェイは必要なのか?
これまでカッタウェイの構造やデメリットについて解説してきましたが、それを踏まえた上で「結局、自分にカッタウェイは必要なのか?」という疑問に行き着くでしょう。
この問いに対する答えは、あなたがアコースティックギターで何をしたいか、つまり、どのような音楽を演奏したいかによって大きく変わってきます。
もし、あなたの主な目的が「弾き語り」であれば、カッタウェイの必要性は低いと言えます。
弾き語りでは、歌の伴奏としてコードをかき鳴らす(ストローク)奏法や、指で弦を一本ずつ弾く(アルペジオ)奏法が中心となります。
これらの奏法で使われるコードの多くは、ネックのヘッド寄りのローポジションからミドルポジションで押さえるものです。
Cコード、Gコード、Amコードといった基本的なコードを押さえる際に、14フレット以上のハイポジションを使うことはまずありません。
そのため、ハイポジションの演奏性を高めるというカッタウェイ最大のメリットを享受する場面が、ほとんどないのです。
この場合、カッタウェイの有無は、演奏性にほとんど影響を与えません。
前述の通り、音質への影響も微々たるものであるため、メリットもデメリットもほとんど感じることなくギターを弾き続けることになるでしょう。
であるならば、選択の基準はどこに置くべきか。
それは「見た目の好み」です。
ギターは演奏するための道具であると同時に、自分の個性を表現するアイテムでもあります。
毎日手に取り、練習に励む相棒となるわけですから、自分が心から「格好いい」と思えるデザインであることは、非常に重要な要素です。
伝統的なノンカッタウェイのフォルムが好きならそれを選ぶべきですし、モダンなカッタウェイのスタイルに惹かれるなら、迷わずそちらを選ぶべきです。
弾き語りがメインであれば、機能面での優劣を気にする必要はほとんどありません。
自分の直感を信じて、愛着を持って長く付き合える一本を選ぶことが、結果的に上達への一番の近道となるでしょう。
アコギのカッタウェイはソロギターで活躍
弾き語りでは必ずしも必要ないとされるカッタウェイですが、その真価が最も発揮される演奏スタイルがあります。
それが「ソロギター」です。
ソロギターとは、歌の伴奏ではなく、ギター一本でメロディ、ハーモニー(和音)、ベースラインを同時に奏でる演奏スタイルのことを指します。
インストゥルメンタル(器楽曲)とも呼ばれ、ギターだけで音楽を完結させるため、非常に幅広い音域を駆使する必要があります。
このソロギターという分野において、カッタウェイは「あると便利」というレベルではなく、「なくてはならない」と言っても過言ではないほど重要な役割を果たします。
その理由は、メロディラインを奏でる際にハイポジションを頻繁に使用するからです。
曲のサビやクライマックスで、聴く人の心を惹きつけるような美しい高音のメロディを弾く場面が数多くあります。
このようなフレーズは、12フレットや14フレットをはるかに超えたポジションで演奏されることが珍しくありません。
ノンカッタウェイのギターでは、ボディが邪魔になってしまい、これらのハイポジションに指が届かなかったり、届いたとしても非常に窮屈なフォームになってしまったりします。
これでは、スムーズで安定した演奏は望めません。
カッタウェイがあれば、エレキギターのようにストレスなくハイポジションにアクセスできるため、ギタリストは運指の心配をすることなく、メロディを奏でることに集中できます。
これにより、表現の幅は格段に広がり、より複雑で高度な楽曲にも挑戦できるようになるのです。
押尾コータローさんやトミー・エマニュエルさんのような世界的なフィンガースタイルギタリストたちが、こぞってカッタウェイ付きのギターを愛用していることからも、その必要性の高さがうかがえます。
もしあなたが将来的にソロギターに挑戦してみたいと考えているのであれば、最初の一本としてカッタウェイ付きのモデルを選んでおくことは、非常に賢明な選択といえるでしょう。
カッタウェイでエレアコじゃないモデルもある
アコースティックギターについて調べていると、「カッタウェイがあるギターは、アンプに繋いで音を出すエレアコ(エレクトリック・アコースティックギター)である」というイメージを持つ方が少なくありません。
実際に、楽器店に並んでいるカッタウェイモデルの多くがピックアップシステムを搭載したエレアコであるため、このイメージが定着しているのも無理はないでしょう。
しかし、これは正確には誤解です。
「カッタウェイ」と「エレアコ」は、それぞれ全く別の要素を指す言葉なのです。
- カッタウェイ:ボディの形状に関する言葉(ハイポジションを弾きやすくするためのもの)
- エレアコ:ピックアップの有無に関する言葉(アンプで音を増幅できるもの)
つまり、この二つは必ずしもイコールで結ばれる関係ではありません。
世の中には、カッタウェイの形状をしていながらピックアップが搭載されていない、純粋な生アコギ(アコースティックギター)も存在します。
このようなギターは、ライブでの使用よりも、自宅での演奏やレコーディングで、ハイポジションを使ったプレイをマイクで録音したい、といった需要に応えるために作られています。
逆に、ノンカッタウェイの伝統的な形状でありながら、ピックアップを後付け、あるいは最初から内蔵しているエレアコも数多く存在します。
これは、伝統的なアコギのルックスと響きを保ちつつ、ライブでの利便性を確保したいというギタリストに人気があります。
なぜ市場では「カッタウェイ=エレアコ」の組み合わせが多いのか。
それは、カッタウェイを必要とするようなハイポジションを多用するテクニカルなプレイは、バンドアンサンブルや大きな会場でのライブで披露されることが多く、その際にはアンプによる音の増幅が不可欠となるからです。
メーカー側も、そうした需要を見越して、カッタウェイモデルには初めからピックアップを搭載するケースが多いのです。
もしあなたが「ハイポジションは弾きたいけれど、アンプに繋ぐ予定はないので、できるだけシンプルな生アコギが欲しい」と考えているのであれば、「カッタウェイ付きの生アコギ」という選択肢も存在することを覚えておくと良いでしょう。
ギターを購入する際には、見た目だけで判断せず、必ず商品説明の詳細スペックを確認し、ピックアップの有無をチェックすることが、ミスマッチを防ぐ上で非常に重要です。
デメリットを理解した上でのアコギ カッタウェイのおすすめ
これまで解説してきたデメリットをすべて理解した上で、それでもやはりカッタウェイ付きのアコースティックギターが欲しい、と考える方も多いでしょう。
そのスタイリッシュなルックスや、ソロギターへの憧れは、ギタリストにとって大きな魅力です。
ここでは、価格帯別に具体的なおすすめモデルをいくつか紹介します。
これらのモデルは、多くのギタリストから支持されており、カッタウェイモデルの入門としても最適です。
【3万円台】Aria 101CE MTN
老舗の国内ギターメーカーAria(アリア)が手掛ける、非常にコストパフォーマンスに優れたエレアコです。
この価格帯でありながら、信頼性の高いFISHMAN(フィッシュマン)製のピックアップとプリアンプを搭載しており、チューナー機能も内蔵しているため、ライブでも即戦力となります。
カッタウェイの形状は、先端が尖ったポインテッドカッタウェイを採用しており、シャープな印象を与えます。
低予算でしっかり使えるカッタウェイモデルを探している初心者の方に、まずおすすめしたい一本です。
【4万円台】Fender Redondo Player
エレキギターの王道ブランドであるFender(フェンダー)が作る、個性的なアコースティックギターです。
最大の特徴は、エレキギターと同じ6連ペグのヘッドストックと、握りやすいスリムなネックシェイプです。
普段エレキギターを弾いている人が持ち替えても違和感が少なく、スムーズに演奏できます。
ボディサイズはドレッドノートに近い大きめのもので、迫力のあるサウンドが期待できます。
ラウンデッドカッタウェイを採用し、ピックアップも搭載。
Fenderらしいユニークなデザインが好きな方にぴったりのモデルです。
【10万円台~】Taylor 214ce Rosewood
現代のアコースティックギターシーンを牽引するTaylor(テイラー)の人気シリーズのエントリーモデルです。
テイラーならではの洗練されたボディシェイプとラウンデッドカッタウェイの組み合わせは、まさにスタイリッシュという言葉がふさわしいでしょう。
演奏性の高さは折り紙付きで、非常に弾きやすいと定評があります。
搭載されているピックアップ「ES2」は、プロの現場でも高く評価されており、アンプに繋いだ際のサウンドは非常にナチュラルで表現力豊かです。
デザイン、音質、機能性のすべてにおいて高いレベルでバランスが取れており、一本目のギターとしてはもちろん、二本目以降のステップアップとしても間違いない選択といえます。
これらのモデルはあくまで一例です。
最終的には、楽器店で実際にギターを手に取り、抱え心地や音色を確かめて、自分が「これだ!」と思える一本を見つけることが最も大切です。
まとめ:アコギのカッタウェイはいらない?デメリットを知って賢く選ぼう
- カッタウェイはハイポジションを弾きやすくするためのボディ形状である
- メリットは演奏性の向上とスタイリッシュなデザインである
- デメリットは理論上の生音の劣化と価格の上昇である
- 音への影響は木材や設計のほうが大きく、その差は微々たるものである
- 弾き語りがメインならカッタウェイの必要性は低い
- ソロギターなどハイポジションを多用するなら大きな利点となる
- 「カッタウェイ=エレアコ」というわけではなく、生アコギも存在する
- メーカーによってカッタウェイの形状(ラウンデッド、ポインテッド)は異なる
- 剛性はノンカッタウェイに比べて若干落ちる点に注意が必要である
- 最終的には演奏スタイルと見た目の好みで選ぶのが最も良い