Eventide H90は、多くのギタリストにとって一つの到達点とも言えるマルチエフェクトペダルです。
その圧倒的な音質や機能性から「空間系ペダルの探しの旅が終わる」とまで言われる一方、価格の高さや専門的な機能から、導入を迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、Eventide H90の実際の音質、前モデルH9からの進化、具体的な使い方や注意点まで、詳細なレビュー解説を行います。
H90が持つ真の実力と、それがあなたのサウンドメイクにもたらす可能性を、あらゆる角度から検証していきます。
Eventide H90 レビュー解説:「空間系ペダル探しの旅」を終わらせる最高峰マルチか?
【結論】H90は「H9を2台搭載し、弱点をすべて克服したモンスターマシン」
Eventide H90は、単なるH9の後継機ではありません。
前モデルH9は、その革新的なサウンドで人気を博しましたが、「同時に1つのアルゴリズム(エフェクト)しか使えない」という大きな制約がありました。
そのため、ディレイとリバーブを同時に使いたいプロの現場などでは、H9を2台ペダルボードに並べる光景が珍しくありませんでした。
H90は、この根本的な問題を解決しました。
強力なプロセッサにより2つのアルゴリズムを同時に、しかも直列(シリーズ)でも並列(パラレル)でも自由に組み合わせて使用可能です。
さらに、H9では必須だったアプリでの操作性も、大型OLEDディスプレイと複数のノブを搭載することで本体のみでの音作りが格段に向上しています。
まさに、H9ユーザーが抱えていた弱点をすべて克服し、正統進化した「モンスターマシン」と呼ぶにふさわしい仕上がりです。
H90はどんなギタリストにおすすめ? 5つのタイプ
H90は、以下のようなギタリストに特におすすめできるペダルです。
- 音質に一切妥協したくないギタリストEventideならではの、透明感と解像度の高いスタジオクオリティのサウンドを足元で実現したい方には最適です。
- ペダルボードをシンプルにまとめたい方これまで複数の高級ディレイやリバーブ、モジュレーションペダルを並べていた場合、H90一台に集約できる可能性があります。
- H9を2台使いしていた、または検討していた方H9を2台運用するのと同等以上の機能性を、より省スペースかつ多機能なルーティングで実現できます。
- 複雑なルーティングや音作りを追求したい方4イン4アウトやインサート機能を利用し、アンプや他のペダルと絡めた高度なサウンドシステムを構築したい方。
- インスピレーションを刺激する音を求める方BlackholeやPrism Shiftなど、H90にしか出せない独創的なサウンドは、新たな曲作りや演奏のアイデアを与えてくれます。
逆にH90をおすすめしにくい人とは?
H90は万能に見えますが、すべての人に最適とは限りません。
例えば、アンプシミュレーターやIRローダーまで含めた「オールインワン」を求める場合、H90はエフェクトに特化しているため目的に合わないかもしれません。
また、操作はH9より格段に改善されたものの、ツマミを回すだけのシンプルな操作性を求める方にとっては、多機能性が逆に複雑に感じられる可能性もあります。
そして、最大の障壁はやはり価格です。
特定の機能だけが必要な場合、より安価な単機能ペダルを選ぶ方が合理的な選択となるでしょう。
H90の「音質」は本当に最高峰か? 主要サウンドを徹底レビュー
Eventideの真骨頂:圧巻の透明感と深さを誇るリバーブ(Blackhole, SP2016など)
Eventideの代名詞とも言えるのがリバーブの品質です。
H90は、その期待を裏切りません。
特に有名な「Blackhole」アルゴリズムは、幻想的でどこまでも広がるようなシネマティックな空間を創り出します。
ただ残響が長いだけでなく、音の芯を失わずに空間だけを豊かに広げる透明感は圧巻です。
さらに、伝説的なスタジオ機器のアルゴリズムを移植した「SP2016 Reverb」などは、楽曲に自然に馴染む高品質なルームリバーブやプレートリバーブを提供します。
高精度なピッチシフトとハーモナイザーの実力(Polyphony, Prism Shift)
H90は「Harmonizer(ハーモナイザー)」の名を冠する通り、ピッチシフトエフェクトも非常に強力です。
新開発のSIFT(Spectral Instantaneous Frequency Tracking)技術により、和音(コード)を弾いても正確に追従するポリフォニック・ピッチシフトを実現しました。
これにより、従来のピッチシフターにありがちだった音の揺らぎや不自然さが劇的に改善されています。
新アルゴリズムの「Polyphony」や「Prism Shift」を使えば、ギター1本とは思えないような重厚なハーモニーや、きらびやかなアルペジオを生み出すことが可能です。
ディレイ、モジュレーション、歪み(Weedwacker)の品質は?
H90は空間系やピッチ系だけでなく、他のエフェクトも一級品です。
「Head Space」や「Bouquet Delay」といったアルゴリズムでは、ヴィンテージなテープエコーやBBD(アナログディレイ)の質感を忠実に再現しています。
モジュレーション系では、リアルなUni-Vibeエミュレーションの「Even-Vibe」や、世界初のスタジオフェイザーを再現した「Instant Phaser」など、歴史的な名機のサウンドが手に入ります。
さらに、有名なグリーンペダルを彷彿とさせるオーバードライブ「Weedwacker」も搭載しており、単なる空間系マルチに留まらないサウンドメイクの幅を持っています。
Eventide H90の最大の特徴:前作H9からの劇的な進化点
最大の進化:H9の「1アルゴリズム」から「2アルゴリズム同時使用」へ
H90の最も大きな進化点は、間違いなく「2アルゴリズムの同時使用」に対応したことです。
前作H9では、リバーブを使っている間はディレイが使えない、という制約がありました。
H90では、2つの独立したアルゴリズム(エフェクトブロック)を同時に起動できます。
これにより、「Blackholeリバーブをかけながらヴィンテージ・テープエコーも使う」といった、H9ユーザーが夢見た組み合わせが1台で完結します。
H9では難解だった「本体での操作性」が大型ディスプレイとノブで劇的に改善
H9のもう一つの弱点は、本体にはノブが1つしかなく、詳細な音作りはスマートフォンやPCのアプリが必須だった点です。
H90では、この操作性が劇的に改善されました。
高解像度の大型OLEDディスプレイが搭載され、現在の設定やパラメーターが一目瞭然になりました。
さらに、5つのプッシュターン式ノブ(押しながら回せるノブ)により、アプリを立ち上げなくても本体だけで直感的に、かつ深く音作りを追い込むことが可能になっています。
PC/Mac/iPad専用アプリ「H90 Control」で快適な音作り
本体での操作性が向上した一方で、もちろん専用のソフトウェア「H90 Control」も用意されています。
USB-CまたはBluetooth(iPad)で接続することで、PC、Mac、iPadの大画面でH90のすべてのパラメーターをグラフィカルに編集できます。
プリセットの管理や、複雑なルーティングの設定なども、このアプリを使えば非常に簡単かつ快適に行えます。
H9 Maxの全アルゴリズム搭載+強力な新規アルゴリズム追加
H90は、H9シリーズの集大成でもあります。
H9 Maxに搭載されていた全52種類のアルゴリズムが、H90のパワーに合わせて機能強化・改良された上で、すべて収録されています。
それに加え、「Polyphony」「Prism Shift」「Wormhole」といった、H90の強力なDSPパワーを活かした14種類(2025年時点)の強力な新規アルゴリズムが追加されました。
まさに、Eventideの過去と未来が共存する、最強のアルゴリズム・ライブラリと言えます。
H90の核となる「4イン/4アウト」の無限なルーティング(接続方法)活用術
【基本】アンプのセンドリターンで使う「4ケーブルメソッド」の接続例
H90の「4イン/4アウト」は、柔軟なシステム構築を可能にします。
最も代表的な使い方が「4ケーブルメソッド」です。
ギターからの信号をH90のインプット1に入れ、H90のセンドからアンプのインプットへ。
そしてアンプのセンドからH90のリターンへ戻し、H90のアウトプットからアンプのリターンへ接続します。
これにより、H90内のアルゴリズムAをアンプのプリアンプ前(歪みの前)に、アルゴリズムBをアンプのプリアンプ後(歪みの後)に配置するといった、プロの現場で必須のルーティングが実現します。
【応用】KemperやHelixと組み合わせるセンドリターン接続
H90は、KemperやHelixといった他のデジタル機器との相性も抜群です。
H90には2系統のインサート(センドリターン)機能が備わっています。
例えば、H90のシグナルチェインの途中に、外部のKemper Playerやお気に入りの歪みペダルをインサートすることができます。
これにより、H90のアルゴリズムでKemperのサウンドを前後から挟み込むなど、より高度な音作りが可能になります。
アンプ前(プリ)とアンプ後(ポスト)にエフェクトを自由配置する方法
前述の4ケーブルメソッドと関連しますが、H90は2つのアルゴリズム(AとB)を信号経路のどこに配置するかを非常に柔軟に設定できます。
例えば、アルゴリズムAのピッチシフターはアンプの前に(プリ)、アルゴリズムBのリバーブはアンプの後に(ポスト)といった設定が、本体のルーティング設定一つで簡単に行えます。
2つのエフェクトを直列(シリーズ)と並列(パラレル)に切り替ええるメリット
H90では、2つのアルゴリズムを直列(シリーズ)で接続するだけでなく、並列(パラレル)で接続することも可能です。
直列では「ギター → A → B → アンプ」と音が流れますが、並列では「ギター → A → アンプ」と「ギター → B → アンプ」という2つの信号をミックスできます。
これにより、ディレイ音とリバーブ音をそれぞれ独立して原音と混ぜることができ、よりクリアで立体的なサウンドメイクが可能になります。
【上級者編】デュアルモードで2つの独立したステレオ信号を同時に処理する方法
H90の「デュアルモード」は、H90を「2つの完全に独立したステレオ・エフェクトペダル」として使用できる機能です。
4イン4アウトをフルに活用し、例えばインプット1/2にはギターを、インプット3/4にはシンセサイザーを接続し、それぞれに全く別のアルゴリズム(AとB)を割り当てて同時に処理することができます。
これは、H90が単なるギターペダルではなく、スタジオ機器としての側面も持つことを示しています。
Eventide H90の評判・口コミと、購入前に知るべき注意点
【評判】「空間系探しの旅が終わった」プロや一般ユーザーの口コミ
H90の評判を調べると、「圧倒的な音質」「これ一台で完結する」「空間系ペダルの探求が終わった」といった絶賛の声が数多く見つかります。
特に、H9から乗り換えたユーザーからは、操作性の向上と2アルゴリズム同時使用の恩恵を高く評価する声が目立ちます。
音にこだわるプロギタリストやベテランプレイヤーほど、H90のサウンドクオリティと機能性を高く評価している傾向があります。
注意点1:価格(定価はいくら? H9を2台買うより高い?)
H90の最大の注意点は、その価格です。
新品の実売価格は、おおよそ14万円から15万円程度(2025年時点)となっており、マルチエフェクターとしては最高クラスの価格帯です。
ただし、前モデルのH9 Maxを2台新品で購入する(約8万円×2=16万円)よりは、結果的に安価になる可能性もあります。
とはいえ、非常に高額な投資であることに変わりはなく、導入には慎重な判断が必要です。
注意点2:専用電源(12V 1A センタープラス)の確保
H90は、一般的なエフェクターと電源の仕様が異なるため注意が必要です。
H90の電源は「12V DC / 1A / センタープラス(+)」を要求します。
多くのエフェクターが使用する「9V / センターマイナス(-)」のパワーサプライでは動作しません。
付属の専用アダプターを使用するか、対応する大容量のパワーサプライを用意する必要があります。
注意点3:スマホ(特にAndroid)は非対応? 編集環境の確認
H9はiOSおよびAndroidのスマートフォンアプリに対応していましたが、H90の専用アプリ「H90 Control」は、PC(Windows/Mac)およびiPadOSのみの対応となっています(2025年時点)。
iPhoneやAndroidスマートフォンでは編集ができないため、出先での細かい設定変更が多い場合は注意が必要です。
とはいえ、本体での操作性が大幅に向上しているため、アプリがなくても基本的な音作りは完結できます。
注意点4:中古で購入する際のリスク(ユーザー登録問題)
H90を中古で安く購入しようと考える場合、注意が必要です。
Eventide製品は、公式ウェブサイトでユーザー登録と製品登録を行うことで、ファームウェアのアップデートや専用アプリ「H90 Control」の使用が可能になります。
もし前オーナーが製品登録を解除していない場合、新たな購入者が登録できず、これらの機能が一切使えないという深刻なリスクがあります。
中古で購入する際は、登録解除済みであることを必ず確認する必要があります。
競合(HX Stompなど)と比較してどう? 音質と機能性の違い
H90は、Line 6のHX StompやBOSSのGT-1000 COREなどと価格帯やサイズ感で比較されることがあります。
最大の違いは、H90が「エフェクトの音質、特に空間系とピッチ系」に特化している点です。
HX StompなどがアンプシミュレーターやIRローダーを含む「オールインワン・ソリューション」を目指しているのに対し、H90はあくまで「最高品質のエフェクター」としての立ち位置です。
どちらが優れているかではなく、自分のシステムにアンプ機能が必要か、それとも既存のアンプやシミュレーターと組み合わせて最高のエフェクトを使いたいのか、目的によって選ぶべき製品が異なります。
Eventide H90の全スペックと搭載エフェクト一覧
H90のサイズ、重量、入出力端子、電源仕様
Eventide H90の基本的なスペックは以下の通りです。
| 項目 | スペック |
| 入出力 | 4 x 1/4インチTRS(インプット1/2, 3/4) 4 x 1/4インチTRS(アウトプット1/2, 3/4) |
| インサート | 2系統(モノラル)または1系統(ステレオ) |
| 外部コントロール | 2 x エクスプレッション・ペダル入力、MIDI IN/OUT(Thru) |
| USB | USB Type-C(アップデート、H90 Control用) |
| Bluetooth | 対応(iPadOS用H90 Control) |
| 電源 | 12V DC @ 1A / センタープラス(専用アダプター付属) |
| 寸法 | 170 (W) x 136 (D) x 68 (H) mm |
| 重量 | 0.84 kg |
新規追加された14種類のアルゴリズム詳細
H90には、H9 Maxにはなかった以下の強力なアルゴリズムが新たに追加されています(2025年時点)。
- Polyphony: SIFT技術によるポリフォニック・ピッチシフト
- Prism Shift: 3ボイスのピッチシフトとアルペジエーター
- Wormhole: ピッチワープする巨大なリバーブ
- Weedwacker: 2ステージのシリアルオーバードライブ
- Even-Vibe: 本格的なUni-Vibeエミュレーション
- Head Space: ヴィンテージ4ヘッド・テープディレイ
- Bouquet Delay: BBD(アナログディレイ)エミュレーション
- Instant Phaser: 1971年製スタジオ・フェイザーの再現
- Instant Flanger: 世界初のスタジオ・フランジャーの再現
- SP2016 Reverb: 伝説のスタジオ・リバーブの移植
- PolyFlex: ポリフォニック・コード・ベンディング
- PolySynth: ギターをシンセサイザーに変える
- Aggravate: オクターブ・ファズ
- Sticky Tape: テープ・アルゴリズム
H9 Maxから継承された全52種類のアルゴリズム一覧
H90には、上記の新アルゴリズムに加えて、H9 Maxに搭載されていた全52種類のアルゴリズムが、H90のパワーに合わせて改良・最適化された上で収録されています。
「Blackhole」「Shimmer」「Tape Echo」「Vintage Delay」「ModFactor(コーラス、フランジャー等)」「PitchFactor(H910/H949等)」など、Eventideの歴史を彩ってきた伝説的なサウンドがすべて網羅されています。
まとめ:EVENTIDE H90 レビュー解説
H90が1台あれば、ペダルボードはどれだけシンプルになるか
Eventide H90は、これまで高品位なリバーブ、ディレイ、モジュレーション、ピッチシフターを個別に揃えていたギタリストにとって、最終的な回答となり得るペダルです。
H9を2台並べていたシステムはもちろん、複雑に組まれた大規模なペダルボードも、H90一台に集約できるほどのパワーと音質、柔軟性を備えています。
改めて確認:H90のメリットとデメリット
H90のメリットは、妥協のないスタジオ品質のサウンド、2アルゴリズムの同時使用、大幅に改善された操作性、そして4イン4アウトによる無限のルーティング可能性です。
一方、デメリットは高額な初期投資、12Vセンタープラスという特殊な電源仕様、そしてスマートフォン(iPhone/Android)アプリでの編集に非対応である点が挙げられます。
プロの音質を足元に置きたいすべてのプレイヤーへ
Eventide H90は、決して安価なペダルではありません。
しかし、その価格に見合うだけの、あるいはそれ以上の「音質」と「インスピレーション」を提供してくれる機材であることも事実です。
もしあなたが、音作りにおいて一切の妥協をしたくない、自分のサウンドを次のレベルへ引き上げたいと本気で考えているなら、H90は最も信頼できるパートナーとなるでしょう。
- Eventide H90は、H9の弱点を克服し2アルゴリズム同時使用を実現した後継機である
- H9 Maxの全52アルゴリズムに加え、強力な14の新規アルゴリズムを搭載する
- 大型OLEDディスプレイと複数のノブにより、本体での操作性が劇的に向上した
- 圧倒的な音質を誇るリバーブ(Blackhole等)と高精度なピッチシフトが最大の強みである
- 4イン4アウトの入出力を持ち、「4ケーブルメソッド」など柔軟なルーティングに対応する
- 2系統のインサート機能で、外部ペダルやアンプシミュレーターと高度に連携できる
- 専用アプリ「H90 Control」はPC/Mac/iPadに対応するが、スマホには非対応である
- 電源は12V DC / 1A / センタープラス仕様であり、専用アダプターか対応電源が必要である
- 価格は高額だが、複数の高級ペダルを集約できるためコストパフォーマンスは一概に悪くない
- 中古購入時は、前オーナーのユーザー登録解除が必須である点に最大限の注意が必要である

