グレッチのギターについて調べていると、必ずと言っていいほど目にする「テネシアン」と「テネシーローズ」。
見た目はそっくりなのに名前が違うこの2つのモデルに、どのような違いがあるのか疑問に思ったことはありませんか。
特に、浅井健一(ベンジー)さんやチバユウスケさんのファンなら、その違いが気になる方も多いでしょう。
この記事では、グレッチのテネシアンとテネシーローズの根本的な違いから、歴史的背景、各モデルの特徴、愛用ミュージシャン、そして現行モデルの選び方まで、あらゆる角度から徹底的に解説します。
グレッチのテネシアンとテネシーローズ、結局何が違うの?
多くの人が抱くこの疑問について、まずは結論からお伝えします。
仕様の違いはあれど、根本的には同じ歴史を持つモデルであり、その背景には契約上の理由が存在します。
結論:基本は同じモデル!名前が違う理由は「大人の事情」
グレッチの「テネシアン」と「テネシーローズ」は、基本的には同一のモデル、G6119を指します。
ではなぜ名前が2つあるのかというと、時代によって呼び名が変わったためです。
元々は「テネシアン」という名前でしたが、後年「テネシーローズ」に改名されました。
したがって、ヴィンテージ市場で探す場合は「テネシアン」、新品の現行品を探す場合は「テネシーローズ」という名前で探すのが一般的です。
なぜ名前が変わった?チェット・アトキンス氏との契約が鍵
名前が変更された背景には、グレッチ社と伝説的ギタリスト、チェット・アトキンス氏との契約問題が関係しています。
元々「テネシアン」という名前は、チェット・アトキンス氏の楽曲名に由来するシグネイチャーモデルとしての名称でした。
しかし1979年、アトキンス氏がグレッチとのエンドース契約を打ち切ったことで、グレッチは彼の名前や関連する名称を使用できなくなってしまったのです。
その結果、「テネシアン」に代わる新しい名前として「テネシーローズ」が採用されました。
時代や復刻モデルによるスペックの違いを徹底解説
テネシアンとテネシーローズは元をたどれば同じモデルですが、製造された年代や復刻モデルによって細かなスペックが異なります。
例えば、ピックアップの種類、Fホールの有無(ダミーか本物か)、塗装の種類、ブリッジの仕様など、様々な違いが存在します。
この記事では、そうした時代ごとの変遷や各モデルの詳細な違いについても詳しく掘り下げていきますので、購入を検討している方はぜひ参考にしてください。
テネシアンからテネシーローズへ受け継がれる歴史

G6119モデルの歴史は、その時々の音楽シーンやギタリストの要求を反映しながら、数々の変遷を遂げてきました。
廉価版モデル「テネシアン」の誕生(1959年)
G6119「テネシアン」は、1959年に上位モデルであるG6120ナッシュビルの廉価版として開発されました。
コストダウンのために装飾はシンプルにされましたが、グレッチの基本構造はしっかりと受け継いでおり、そのシックなルックスが独自の個性を放っていました。
当時のスペックは、リアにハイロートロンピックアップを1基のみ搭載し、ヘッドは黒塗りというシンプルな仕様でした。
現在の仕様へ進化したモデルチェンジ(1962年)
1962年、テネシアンは大きなモデルチェンジを迎えます。
これは、当時フラッグシップモデルであったカントリージェントルマンがダブルカッタウェイ仕様に変更された際、それまでのシングルカッタウェイのデザインをテネシアンが継承する形で行われました。
このモデルチェンジにより、現在我々がよく知るテネシアンの姿が確立されたのです。
ビートルズのジョージ・ハリスンが使用したのも、この1962年仕様のモデルとして知られています。
「テネシーローズ」への改名(1979年)
前述の通り、1979年にチェット・アトキンス氏との契約が終了したことで、モデル名は「テネシアン」から「テネシーローズ」へと変更されました。
この改名後もG6119モデルは生産され続け、グレッチの人気モデルとして不動の地位を築いていきます。
ヴィンテージと現行品の違いを生んだマイナーチェンジの歴史
テネシアンが誕生してから現在に至るまで、G6119は数多くのマイナーチェンジを繰り返してきました。
ボディの厚み、ヘッドデザインの変更、Fホールの有無、ボディ材の構成など、細かな仕様変更が時代ごとに行われています。
これらの違いが、ヴィンテージの個体ごとの個性や、現行の復刻モデルのバリエーションを生み出しているのです。
グレッチ テネシアン/テネシーローズ共通の魅力と特徴

名前や年代による違いはあれど、G6119モデルには一貫した魅力と特徴があります。
それは他のグレッチギターとは一味違う、独特の存在感です。
他のグレッチとは一線を画す「いぶし銀」のルックス
ホワイトファルコンやナッシュビルのような華やかなモデルが多いグレッチの中で、テネシーローズは異彩を放つシックなルックスが特徴です。
鮮やかなオレンジやゴールドパーツが印象的なナッシュビルに対し、テネシーローズはダークチェリーやウォルナットといった落ち着いた色調に、シルバーの金属パーツが組み合わされています。
元々は廉価版としてのデザインでしたが、その「渋さ」が多くのギタリストを魅了し、独自の人気を獲得しました。
サウンドの核!独自ピックアップ「ハイロートロン」とは?
テネシアン/テネシーローズのサウンドを特徴づけるのが、専用のシングルコイルピックアップ「ハイロートロン」です。
見た目はハムバッカーのようですが、これはグレッチの代表的なハムバッカー「フィルタートロン」の片側コイルのポールピースを抜き、シングルコイルとして機能させた特殊な構造になっています。
これにより、ハムバッカーのようにノイズを抑えつつ、シングルコイル特有のクリアで幅広いレンジのサウンド(高音”ハイ”から低音”ロー”まで)を実現しています。
弾きにくい?大きい?デメリットさえも愛される理由
グレッチギター、特にテネシーローズのような箱モノ(ホロウボディ)は、しばしば「弾きにくい」「大きい」「ハウる」といったデメリットが語られます。
実際に、ブリッジが固定されていないモデルが多い、ボディが大きいため取り回しが難しい、大音量で歪ませるとハウリングしやすいといった点は事実です。
しかし、多くの愛用者はそうした不便さや扱いにくさをも含めて「グレッチの個性」として愛しています。
むしろ、そのじゃじゃ馬な特性を乗りこなすことこそが、グレッチを弾く醍醐味だと言えるでしょう。
このモデルを愛用する伝説のギタリスト達

G6119モデルは、その唯一無二の魅力で、時代を象徴する数多くのギタリストに愛されてきました。
ジョージ・ハリスン(ザ・ビートルズ)が愛した「62年製テネシアン」
ザ・ビートルズのリードギタリスト、ジョージ・ハリスンはテネシアンを愛用した最も有名なミュージシャンの一人です。
彼は1964年頃からテネシアンを使用し始め、1965年のツアーではメインギターとして活躍させました。
映画「ヘルプ!」の冒頭で演奏している姿は、多くのファンの記憶に刻まれています。
彼が使用したことで、テネシアン、特に1962年仕様の人気は世界的に不動のものとなりました。
浅井健一(ベンジー)の代名詞「65年製テネシアン」
BLANKEY JET CITYの浅井健一(ベンジー)さんといえば、テネシアンを思い浮かべるファンは非常に多いでしょう。
彼が愛用しているのは1965年製のヴィンテージ・テネシアンです。
そのサウンドと佇まいは、彼の鋭いギタープレイと相まって唯一無二の存在感を放っています。
椎名林檎さんの楽曲「丸の内サディスティック」の有名な一節「ベンジーあたしをグレッチで殴って」も、彼のこのギターを指していると言われています。
チバユウスケ(The Birthday)とテネシーローズ、そしてシグネイチャーモデル
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT時代からグレッチを愛用し、The Birthdayでもメインギターとして活躍したチバユウスケさん。
彼はヴィンテージのテネシアンを所有しつつ、ステージでは現行モデルのテネシーローズを主に使用していました。
後年には、彼のこだわりが詰まったシグネイチャーモデル「G6119T-62TB-YC Yusuke Chiba Tennessee Black」も発売され、多くのファンを魅了しました。
現行テネシーローズの主要ラインナップを比較

現在新品で手に入るテネシーローズは、主にヴィンテージの仕様を再現したモデルと、現代的な演奏性を考慮したモデルに大別されます。
人気のヴィンテージ復刻版:G6119-1962シリーズの違い
最も人気の高い1962年仕様の復刻版には、いくつかのバリエーションが存在します。
共通の仕様として、ペイントされたダミーの「シミュレーテッドFホール」や0フレットが特徴です。
ピックアップは伝統的なハイロートロン搭載モデル(HT)と、改造で人気だったフィルタートロンを標準搭載したモデル(FT)から選べます。
さらに、ラッカー塗装(L)やブリッジを固定したピン・ブリッジ仕様(PB)など、日本国内限定のモデルも存在し、細かなこだわりに応じて選択が可能です。
現代の演奏性を追求したPlayers Editionシリーズの特徴
「Players Edition」は、ヴィンテージのルックスを保ちながら、現代のギタリストが求める演奏性や安定性を追求したシリーズです。
ボディ厚が少し薄めに設計されているほか、チューニングの安定性が高いロッキングチューナー、弦交換が容易なストリングスルー構造のビグスビーなどが採用されています。
伝統的なサウンドと現代的な実用性を両立させたいプレイヤーにおすすめのモデルです。
ヴィンテージ仕様を再現するVintage Select Editionとは?
「Vintage Select Edition」は、特定の年代のヴィンテージ・グレッチの仕様を忠実に再現することにこだわったシリーズです。
テネシーローズのモデルでは、1962年仕様をベースに、TV Jones製のハイロートロンピックアップや、ヴィンテージトーンを生み出す新開発のSqueezeboxコンデンサーが搭載されています。
よりオーセンティックなヴィンテージサウンドを求めるギタリストに適しています。
チバユウスケのこだわりが詰まったシグネイチャーモデル
チバユウスケさんのシグネイチャーモデル「G6119T-62TB-YC」は、彼が愛用したテネシーローズをベースに、ヴィンテージのテネシアンやクリッパーの要素を取り入れた特別な一本です。
マットなテネシー・ブラックカラー、ハイ・センシティブ・フィルタートロンピックアップ、演奏性を考慮したピンド・ブリッジやフェンダータイプのストラップピンなど、随所に彼のこだわりが見られます。
ファンはもちろん、実践的なグレッチを求めるプレイヤーにとっても魅力的な選択肢となるでしょう。
中古のテネシアン/テネシーローズ購入ガイド

新品だけでなく、中古市場もテネシアン/テネシーローズを探す上での重要な選択肢となります。
中古で探すメリットと注意点
中古で探す最大のメリットは、生産完了したモデルやヴィンテージの個体に出会える可能性があること、そして比較的手頃な価格で手に入れられる可能性がある点です。
一方で、注意点としては、個体ごとの状態の差が大きいことが挙げられます。
特にグレッチはブリッジが固定されていないモデルも多く、前オーナーによる改造が施されている場合も少なくありません。
購入前にはネックの状態や電装系の動作などをしっかりと確認することが重要です。
日本製とUSA製の違いは?選ぶ際のポイント
グレッチは時代によって生産国が異なり、ヴィンテージはUSA製、近年のモデルの多くは日本製(寺田楽器製造)です。
一般的にUSA製のヴィンテージは希少価値が高く、独特の鳴りを持つとされていますが、価格も高騰しています。
一方、日本製の現行モデルは品質の高さと安定性に定評があり、多くのプロミュージシャンも愛用しています。
どちらが良いというわけではなく、求めるサウンドや予算、コンディションを考慮して選ぶのが良いでしょう。
ヴィンテージ(オールド)と現行品、結局どっちを選ぶべき?
ヴィンテージと現行品のどちらを選ぶかは、多くのギタリストが悩むポイントです。
メリット | デメリット | |
ヴィンテージ | 唯一無二のサウンドとルックス、歴史的価値 | 価格が高い、コンディションにばらつき、メンテナンスが必要 |
現行品 | 品質の安定性、高い演奏性、保証、比較的手頃な価格 | ヴィンテージほどの枯れたサウンドは出にくい |
歴史やロマンを求めるならヴィンテージ、安定した品質と即戦力としての実用性を求めるなら現行品がおすすめです。
まずは楽器店で両方を試奏し、自身のフィーリングに合う一本を見つけることが最善の方法です。
グレッチ テネシアン/テネシーローズに関するよくある質問

最後に、テネシアンとテネシーローズに関してよく寄せられる質問にお答えします。
ハイロートロンとフィルタートロン、サウンドはどっちが良い?
これは好みの問題ですが、一般的にハイロートロンはよりクリアで高音域が特徴的なシングルコイルらしいサウンド、フィルタートロンはより温かみとパワーのあるハムバッカー的なサウンドとされています。
ベンジーさんのような鋭いサウンドを求めるならハイロートロン、より幅広いジャンルに対応させたい場合はフィルタートロンが向いているかもしれません。
Fホールが描かれているモデルと空いているモデルの違いは?
ヴィンテージのテネシアンやその復刻モデル(G6119-1962シリーズなど)は、ボディトップにFホールが描かれている「シミュレーテッドFホール」が特徴です。
これは、ハウリングを抑制するための設計でした。
一方、近年のモデルには実際に穴が空いているFホールを持つものもあり、よりアコースティックで豊かな鳴りが得られる傾向にあります。
グレッチはチューニングが狂いやすいって本当?
ビグスビー・トレモロユニットが搭載されているモデルは、構造上、激しいアーミングを行うとチューニングが狂いやすくなる傾向はあります。
しかし、ナットの調整やブリッジの選択、そしてPlayers Editionに採用されているロッキングチューナーなどによって、安定性を高めることは可能です。
多くのユーザーは、これをグレッチの特性として理解し、付き合っています。
まとめ:グレッチ テネシアンとテネシーローズの違いを総括
グレッチのテネシアンとテネシーローズの違いについて、多角的に解説してきました。
最後に、この記事の要点をまとめます。
- テネシアンとテネシーローズは、基本的には同じG6119モデルである
- 名前の変更は、チェット・アトキンス氏との契約終了が原因
- グレッチの中でも異彩を放つシックなルックスが大きな特徴
- サウンドの要は、シングルコイルを元にした独自のハイロートロンPU
- ジョージ・ハリスンや浅井健一(ベンジー)氏の使用で人気が不動のものとなった
- 現行モデルはヴィンテージ復刻版と現代的な演奏性を重視した版に大別される
- 搭載ピックアップはハイロートロンとフィルタートロンから選択可能
- 弾きにくさやハウリングといった点も、愛好家にとっては魅力の一部である
- 中古市場では、ヴィンテージならではの個体や改造歴の確認が重要となる
- 見た目と音、その両方に唯一無二の魅力を持つギターである