マルチエフェクターやアンプシミュレーターを使っていると「IR」という言葉をよく耳にするようになりました。
しかし、実際にIRとは何なのか、従来の機能と何が違うのか、自分の機材でどう使えばいいのか詳しくわからないという方も多いのではないでしょうか。
IRを正しく理解して活用すれば、ライン録音やヘッドホンでの練習でも、まるで本物のチューブアンプをスタジオで鳴らしているかのような、リアルで迫力のあるサウンドを手に入れることができます。
この記事では、IRの基礎知識から具体的な使い方、接続順のルール、そしておすすめの対応機種までを網羅的に解説します。
音作りのクオリティを一段階引き上げたいギタリストの方は、ぜひ最後までご覧ください。
マルチエフェクターの「IR」とは?初心者にもわかりやすく解説
IR(インパルス・レスポンス)の正体は「空間とスピーカーの響きを記録したデータ」
IRとは「インパルス・レスポンス(Impulse Response)」の略称で、特定の空間や機材が持つ音響特性を記録したオーディオデータのことを指します。
ギターの音作りにおいて、アンプヘッドで作られた電気信号は、スピーカーキャビネットから空気振動として出力され、マイクを通して録音されます。
このとき、スピーカーの口径や材質、キャビネットの構造、マイクの種類と位置、さらには部屋の反響音(ルームアコースティック)など、数多くの要素がサウンドに影響を与えます。
IRデータは、これら「スピーカーからマイクで録音されるまでのすべての空気感や響き」をパッケージ化したものです。
つまり、IRを使うということは、単にスピーカーの音を模倣するだけでなく、プロのスタジオでマイキングされた状態そのものを再現することを意味します。
従来の「キャビネットシミュレーター」と「IR」の違いはリアルさと空気感
従来のマルチエフェクターに搭載されていたキャビネットシミュレーターとIRの最大の違いは、音のリアルさと解像度、そして「空気感」の再現性にあります。
かつてのキャビネットシミュレーターは、主にイコライザー(フィルター)を使用して、スピーカーのような周波数特性を作り出していました。
これは計算負荷が軽く扱いやすい反面、どうしても平面的で「ライン臭い」といわれる不自然さが残ることがありました。
一方、IRは実際の音響測定データを基に「コンボリューション(畳み込み演算)」という高度な処理を行うことで、複雑な音の響きをそのまま再現します。
その結果、スピーカーコーンの震えや箱鳴り、マイクとの距離感といった微細なニュアンスまで表現可能になり、弾き手のタッチに対するレスポンスも飛躍的に向上しました。
なぜIRが必要なのか?ライン録音やヘッドホン練習で「アンプの音」が出る理由
近年のレコーディングや自宅練習では、大きな音を出せない環境が多いため、アンプをマイクで録るのではなく、ライン接続を行うケースが増えています。
しかし、アンプヘッドや歪みエフェクターの音をそのままラインで録音すると、ジリジリとした耳障りなノイズのような音になってしまいます。
これは、本来スピーカーキャビネットを通すことで高域がまろやかになり、中低域に厚みが加わるという工程が欠けているためです。
ここでIRを使用すると、ライン信号に対して「スピーカーを通してマイクで拾った音響特性」を付加することができます。
これにより、ヘッドホンやオーディオインターフェースを通した音であっても、まるで目の前でギターアンプが鳴っているかのような、迫力あるサウンドで演奏や録音ができるようになるのです。
マルチエフェクターでIRを使うメリット・デメリット
メリット:憧れのヴィンテージアンプや高級マイクのサウンドが手に入る
IRを活用する最大のメリットは、物理的に所有することが難しい機材のサウンドを、データとして手軽に利用できる点です。
例えば、1960年代の貴重なヴィンテージキャビネットや、数十万円するようなハイエンドなリボンマイク、コンデンサーマイクを使用したサウンドも、IRデータさえあれば再現可能です。
また、プロのエンジニアが最適なマイキングで収録したデータを使用できるため、マイクの位置調整や位相の問題に悩まされることなく、常に「最高の音」で演奏することができます。
自分では用意できない機材環境を、小さなマルチエフェクターの中に構築できるのは大きな魅力といえるでしょう。
メリット:宅録でもライブハウスでも「いつもの音」を再現できる
環境に左右されずに、常に安定した高音質なサウンドを出力できることもIRの大きな利点です。
ライブハウスのアンプは状態が悪かったり、好みの機種が置いていなかったりすることがあります。
しかし、足元のマルチエフェクターでアンプシミュレーターとIRを使って音作りを完結させ、PA卓へ直接信号を送る(ライン出力する)ことで、会場のアンプに依存しない音作りが可能になります。
自宅でのレコーディングで作ったお気に入りのサウンドを、そのままライブ会場でも再現できるため、リハーサルの時間を大幅に短縮し、演奏に集中できるようになります。
デメリット:データの読み込み(ロード)やDSP容量の消費に注意が必要
IRは非常に高品位なサウンドを提供する一方で、マルチエフェクターの処理能力(DSPパワー)を多く消費するというデメリットがあります。
高解像度のIRデータや、長いサンプル時間のIRを使用すると、同時に使用できる他のエフェクトの数が制限される場合があります。
また、外部のIRデータをマルチエフェクターで使用するためには、PCと接続して専用ソフト経由でデータを転送(ロード)する手間が必要です。
さらに、データ形式(サンプリングレートやビット深度)が機種に対応していないと読み込めないこともあるため、事前の確認と準備が重要になります。
IR・アンシュミ・プリアンプの正しい接続順と音作り
基本的な信号の流れ:ギター→エフェクター→プリアンプ→IR(キャビネット)
IRを効果的に使うためには、実際のギターアンプの仕組みと同じ信号の流れを理解しておく必要があります。
物理的な機材の接続順序は以下のようになっています。
- ギター
- 足元のエフェクター(歪みなど)
- プリアンプ(音作りと増幅)
- パワーアンプ(電力増幅)
- スピーカーキャビネット(音の出力)
- マイク(集音)
マルチエフェクター内部でもこの順番を守ることが基本です。
IRデータは「5. スピーカーキャビネット」と「6. マイク」の役割を担っています。
したがって、シグナルチェーンの中では、アンプシミュレーター(プリアンプ+パワーアンプ)の後ろに配置するのが正解です。
IRを入れるべき場所は「アンプブロック」の後段
マルチエフェクターの画面上で音作りをする際は、アンプブロックの直後にIRブロック(またはキャビネットブロック)を配置してください。
もし空間系エフェクト(ディレイやリバーブ)を使用する場合は、IRの後ろに配置するのが一般的です。
これはレコーディングスタジオで、マイクで拾った後の音に対してミキサーで残響を加える工程と同じになります。
逆に、アンプのスプリングリバーブのような質感を狙うならアンプの前やアンプブロック内に含めるなど、狙いたいサウンドによって微調整は可能ですが、基本は「アンプの後ろ」と覚えておけば間違いありません。
実機アンプに繋ぐ時はIRをOFFにする?「二重キャビネット」問題の解決策
スタジオやライブハウスにある本物のギターアンプ(実機)に接続する場合、マルチエフェクター側のIRは基本的に「OFF」にする必要があります。
なぜなら、実機のスピーカーから音が出る時点で、物理的なキャビネットの特性が付加されるからです。
もしIRをONにしたまま実機のアンプに繋ぐと、シミュレートされたキャビネット特性と、実機のキャビネット特性が二重にかかることになります。
これを「二重キャビネット」状態と呼び、音が極端にこもったり、抜けが悪くなったりする原因となります。
実機アンプのインプットやリターン端子に接続して音を出す場合は、IRブロックをバイパスするか、出力設定でキャビネットシミュレーションを無効にする設定を行いましょう。
【実践編】マルチエフェクターに外部IRデータを読み込む方法
PC/Macと接続して専用エディタソフトを使用する手順
多くのIR対応マルチエフェクターは、メーカーが提供する専用のエディタソフト(ライブラリアンソフト)を使用してデータを管理します。
一般的な手順は以下の通りです。
- マルチエフェクターとPC/MacをUSBケーブルで接続する。
- メーカー公式サイトから専用エディタソフトをダウンロードし、インストールする。
- ソフトを起動し、マルチエフェクターを認識させる。
- IR管理画面(IR Loaderなど)を開き、PC内に保存したIRファイルをドラッグ&ドロップでインポートする。
- マルチエフェクター上のプリセットで、インポートしたIRスロットを選択する。
機種によって操作画面は異なりますが、基本的にはPC上でファイルを読み込ませるだけで簡単に使用できるようになります。
WAVファイルの形式(サンプリングレート・ビット数)を合わせる
外部IRデータは通常「WAVファイル」形式で配布されていますが、機種によって対応しているフォーマットが異なります。
特に注意が必要なのが「サンプリングレート(44.1kHz, 48kHz, 96kHzなど)」と「ビット深度(16bit, 24bitなど)」です。
例えば、48kHzのみ対応している機種に96kHzのデータを読み込ませようとすると、エラーが出たり、読み込めても音が正しく再生されなかったりします。
多くのエディタソフトには自動変換機能がついていますが、念のため自分の機材が対応しているスペックを確認し、必要であればオーディオ編集ソフトなどで形式を変換してから読み込みましょう。
有料・無料のおすすめIRデータ配布サイト(Red Wirez、Ownhammer、DYNAXなど)
マルチエフェクターに標準搭載されているIRだけでなく、専門メーカーが販売している高品質なIRデータを導入することで、さらに音質を向上させることができます。
代表的なIRブランドをいくつか紹介します。
- Red Wirez(レッドワイヤーズ): 老舗のIRブランドで、膨大な数のマイクポジションとキャビネットの組み合わせを提供しています。
- OwnHammer(オウンハマー): メタルやジェント系ギタリストから絶大な支持を得ているブランドで、重厚で密度の高いサウンドが特徴です。
- DYNAX(ダイナクス): 日本国内のブランドで、プロのレコーディングスタジオで収録された高品質なデータが魅力です。日本の住宅事情や機材環境にマッチしやすい音作りがされています。
これらのサイトでは、有料パッケージの一部を無料のお試し版として配布していることも多いので、まずは無料版をダウンロードして違いを体験してみるのがおすすめです。
IR対応のおすすめマルチエフェクター機種紹介
ハイエンドモデル(Line 6 Helix, Fractal, Neural DSP)
プロフェッショナルな現場で使用されるフラッグシップモデルは、IRの処理能力も非常に高く、音の解像度が圧倒的です。
- Line 6 Helix Floor / Rack: 多くのIRスロットを持ち、信号処理の自由度が高い定番モデルです。2048サンプルの高解像度IRも扱えます。
- Fractal Audio Systems Axe-Fx III: 圧倒的な処理能力を持ち、UltraResという独自の技術で非常にリアルなキャビネットサウンドを実現しています。
- Neural DSP Quad Cortex: 最新のAI技術を用いたキャプチャー機能に加え、IRローダーとしても極めて優秀で、タッチパネルによる操作性も抜群です。
これらは高価ですが、実アンプに匹敵、あるいはそれ以上のサウンドメイクが可能になります。
ミドルクラス・コンパクトモデル(BOSS GT-1000CORE, HX Stomp, HOTONE Ampero)
ボードに組み込みやすいサイズ感と、本格的なサウンドを両立させた人気の価格帯です。
- BOSS GT-1000CORE: 超高速処理による低レイテンシーが特徴で、BOSS独自のAIRD技術とIRを組み合わせることで柔軟な音作りができます。
- Line 6 HX Stomp: Helixと同じサウンドエンジンを搭載しながら小型化を実現しており、外部IRの読み込みにももちろん対応しています。
- HOTONE Ampero II Stomp: タッチスクリーン搭載で操作性が良く、IRローダーとしての機能も充実しているコストパフォーマンスの高いモデルです。
これらのモデルは、ペダルボードの核として、またはサブ機材としても非常に優秀です。
低価格・特化型モデル(ZOOM MS-80IR+, Mooer Radar)
予算を抑えつつIRを導入したい場合や、既存のボードにIR機能だけを追加したい場合に適したモデルです。
- ZOOM MS-80IR+: ストンプボックスサイズにIRローダーとアンプシミュレーターを凝縮したモデルで、手軽に高品質なIRサウンドを楽しめます。
- Mooer Radar: 非常にコンパクトなIRローダー専用ペダルです。プリアンプペダルの後ろに繋ぐだけで、ヘッドホン練習やライン録音が可能になります。
- NUX MG-300 / MG-400: 低価格帯のマルチエフェクターながらIRロード機能を搭載しており、入門機としても最適です。
まずはこれらのモデルからIRの世界に触れてみるのも良い選択です。
マルチエフェクターとIRに関するよくある質問(Q&A)
IRを使うと音がこもる・抜けない時の対処法は?
IRを使用して音がこもって聞こえる場合、最も多い原因は「低域の出過ぎ」です。
IRデータには、キャビネットの「箱鳴り」によるふくよかな低音が記録されていますが、アンサンブルの中ではこれが邪魔になることがあります。
マルチエフェクターのIRブロックにある「ローカット(ハイパス)フィルター」を使用して、80Hz~100Hz以下をカットしてみてください。
また、ハイカット(ローパス)フィルターをかけすぎている場合もあるので、高域の設定も見直してみましょう。
さらに、前述した「二重キャビネット」になっていないか、接続環境も再確認してください。
ベース用のマルチエフェクターでもIRは効果がある?
はい、ベースにおいてもIRは非常に大きな効果を発揮します。
ベースはライン録音が一般的ですが、そのままでは無機質な音になりがちです。
Ampegの8×10キャビネットのような、空気を震わせる巨大なキャビネットのIRを通すことで、サウンドに奥行きとパンチが出ます。
多くのベース用マルチエフェクターやプリアンプ(Darkglassなど)でも、IR対応モデルが増えてきており、ベーシストにとっても必須の技術になりつつあります。
DAWソフト上のプラグインでIRを使うのと何が違う?
音質面では、DAW上のIRローダープラグインを使っても、マルチエフェクターでIRを使っても、同じデータを使えば基本的には同じ結果が得られます。
違いは「負荷をかける場所」と「かけ録りかどうか」です。
マルチエフェクターでIRをかけると、PCのCPU負荷を節約でき、レイテンシー(音の遅延)をほぼ感じずに演奏できるメリットがあります。
一方、DAW上でプラグインとして使用する場合は、録音後にキャビネットの種類を自由に変更できるため、ミックス段階での調整がしやすいというメリットがあります。
用途やPCのスペックに合わせて使い分けるのが賢い方法です。
まとめ:マルチエフェクター irの完全ガイド
- IRとはスピーカーやマイク、空間の音響特性を記録したリアルなデータである
- 従来のシミュレーターよりも空気感やレスポンスに優れている
- ライン録音やヘッドホン練習でも本物のアンプのような迫力を出せる
- 外部のIRデータを読み込むことで、無限の音作りが可能になる
- 信号の流れは「アンプ(プリアンプ)→IR」の順にするのが鉄則である
- 実機のアンプから音を出す際はIRをOFFにして二重キャビネットを防ぐ
- データ読み込み時はWAVファイルの形式(48kHz/24bitなど)に注意する
- 有料のIRデータ(DYNAXなど)を使うとさらにクオリティが上がる
- 初心者はZOOMやMooerなどの低価格モデルから試すのがおすすめである
- 低音がこもる場合はローカットフィルターで調整すると抜けが良くなる

