Paul Reed Smith(PRS)のギターは、その美しいルックスと高い演奏性で世界中のギタリストを魅了し続けています。
中でも、多彩なサウンドバリエーションを誇るモデルは、一本で様々なジャンルに対応したいプレイヤーにとって非常に魅力的です。
この記事では、特に多機能モデルとして知られる「PRS 513」とその後継機である「PRS 509」の具体的な違いに焦点を当てて詳しく解説します。
さらに、PRSの代表モデルであるCustom24や、構造が異なるCEシリーズ、コストパフォーマンスに優れたS2、SEシリーズ、そして美しい木目が特徴の10TOPといったグレードとの比較も交えながら、それぞれのモデルが持つ個性と立ち位置を明らかにしていきます。
PRSギターの購入を検討している方、特に513と509の違いについて知りたい方が、ご自身に最適な一本を見つけるための手助けとなれば幸いです。
PRS 513と509の仕様における明確な違い

PRS 513とは?CEシリーズとの関係性
PRS 513は、そのモデル名が示す通り「5つの独立したピックアップから13種類のサウンドを出力できる」という、PRS史上でも屈指の多彩なサウンドバリエーションを誇ったモデルです。
このモデルは、PRSの主軸である「Coreライン」に属しており、豊かな鳴りとサスティンを生み出すセットネック構造を採用しています。
一方で、時折混同されることがあるCEシリーズは、メイプルネックをボディにボルトで固定する「ボルトオン」構造が最大の特徴です。
CEは「Classic Electric」の略で、その構造から音の立ち上がりが早く、歯切れの良いサウンドキャラクターを持っています。
つまり、513とCEシリーズは、ネックのジョイント方式というギターの根幹設計が全く異なる、それぞれ独立したコンセプトを持つモデルです。
513の最大の特徴は、独自のピックアップシステムにあります。
一見するとHSH(ハムバッカー/シングルコイル/ハムバッカー)の配列に見えますが、5つのピックアップはすべて独立したシングルコイルとして機能します。
コントロール部にある3wayのモードセレクタースイッチによって、「シングルコイルモード」「クリアハムモード」「ヘヴィハムモード」という3つの基本キャラクターを切り替え、さらに5wayのピックアップセレクターで組み合わせることで、合計13種類という膨大なサウンドメイクを可能にしていました。
また、もう一つの特徴として、ネックスケールがPRSの標準である25インチよりわずかに長い「25.25インチ」に設定されている点が挙げられます。
このわずかなスケールの違いが、弦のテンション感を高め、より張りのあるクリアなトーンを生み出す一因となっています。
しかし、その多機能さゆえに操作が複雑であると感じるプレイヤーや、「クリアハムモードが中途半端」といった声も一部にはあり、プレイヤーを選ぶモデルであったことも事実です。
残念ながら現在では生産完了となっていますが、その唯一無二の多機能性から、中古市場では今なお根強い人気を誇るモデルと言えるでしょう。
後継モデル「PRS 509」とはどんなギターか
PRS 509は、生産完了となった513の革新的なコンセプトを受け継ぎつつ、より実践的で直感的な操作性を追求して開発された後継モデルです。
モデル名は「5つのピックアップから9種類のサウンドを出力できる」ことに由来しており、513のサウンドバリエーションを少し絞り込むことで、プレイヤーにとっての扱いやすさを格段に向上させました。
509のピックアップシステムも、513と同様に5つの独立したシングルコイルが基本となっています。
センターピックアップ以外の4つのシングルコイルが、それぞれフロントとリアのハムバッカーとしても機能する構造です。
513との最大の違いは、コントロール部にあった3wayのモードセレクタースイッチが廃止された点にあります。
その代わりに、フロントピックアップとリアピックアップのコイルタップを、それぞれ独立した2つのミニトグルスイッチで行う方式が採用されました。
これにより、プレイヤーは5wayのブレードスイッチで基本的なピックアップポジションを選択し、必要に応じてフロントやリアをシングルコイルに切り替える、という非常にシンプルで直感的な操作が可能になりました。
例えば、HSH(ハム/シングル/ハム)、SSH(シングル/シングル/ハム)、HSS(ハム/シングル/シングル)、そして3シングルといった、現代のギタリストが求めるほぼ全てのピックアップコンビネーションを瞬時に作り出せます。
サウンド面においても、513で一部から指摘されていた点を改善するべく再設計されており、コイルタップ時のシングルコイルサウンドはいわゆる「タップした音」というような細いものではなく、しっかりと太さを感じさせる本格的なものに進化しています。
また、ハムバッカーサウンドもパワーが強すぎることなく、スッキリとしたレンジ感で非常に扱いやすいと評価されています。
513から受け継いだ25.25インチのネックスケールや、接地面積を広くとった独自のネックジョイントも健在で、PRSならではの豊かな鳴りと張りのあるトーンに貢献しています。
513の多機能性に魅力を感じつつも操作の複雑さに躊躇していたプレイヤーにとって、509はまさに理想的な進化を遂げたモデルと言えるでしょう。
代表モデルPRS Custom24との音作りの違い
PRSの顔とも言える代表モデルCustom24と、513/509の音作りのコンセプトは、似ているようでいて実は大きく異なります。
結論から言えば、Custom24が「洗練された基本性能とシンプルな操作性で、プレイヤーの表現力を引き出す」ギターであるのに対し、513/509は「多彩なサウンドプリセットを駆使して、あらゆる音楽シーンに対応する」万能ツールとしての側面が強いモデルです。
Custom24のサウンドシステムは、基本的に2つのハムバッキングピックアップと5wayブレードスイッチで構成されています。
この5wayスイッチは、単なるピックアップの切り替えだけではありません。
ポジション2や4では、片方のハムバッカーが自動的にコイルタップされ、もう片方のピックアップとミックスされることで、ストラトキャスターのような煌びやかで美しいハーフトーンを生み出します。
これにより、レスポールのような太く甘いハムバッカーサウンドから、フェンダーギターのようなシャープなシングルコイル風サウンドまでを、スイッチ一つでシームレスに行き来できるのです。
これは「ギブソンとフェンダーの良いとこ取り」と評されるPRSの思想を最も体現した、非常に完成度の高いシステムと言えます。
一方、513/509の音作りの根幹は、「本物のシングルコイルピックアップ」を搭載している点にあります。
Custom24のシングルコイル風サウンドは、あくまでハムバッカーの片側をキャンセルした「コイルタップ」によるものですが、513/509は構造的に純粋なシングルコイルを5つ搭載し、それを組み合わせることで多彩な音色を生み出します。
特にシングルコイルのサウンドクオリティは非常に高く、クリアで抜けの良いトーンはコイルタップでは得難い魅力を持っています。
このように、Custom24はプレイヤーのピッキングニュアンスやボリューム操作によって多彩な表情を生み出す、いわば「究極のスタンダード」です。
対して513/509は、あらかじめ用意された9種類(513は13種類)のサウンドパレットの中から、楽曲やフレーズに最適な音色をスイッチで選び出して使う、というプロフェッショナルな現場での要求に応えるための「多機能ツール」としての性格が強いと言えるでしょう。
PRS 10TOPとのグレードや仕様の違い
PRSギターを調べていると、しばしば「10TOP(テントップ)」という言葉を目にすることがあります。
これは513や509、Custom24といった特定のモデル名ではなく、ボディトップに使用される木材の「美しさのグレード」を示すものです。
PRSギターの大きな魅力の一つに、見る角度によって表情を変える立体的なフィギュアド・メイプルの美しい杢目が挙げられます。
PRSファクトリーでは、ギターに使用するメイプル材をストックしており、その中から特に杢目が均一で、ボディ全体に途切れることなくくっきりと現れている、極めて上質な材だけを選び出します。
そして、「ストックしている10本のトップ材の中から、最も美しい1本」という意味を込めて、その材に「10TOP」という特別な等級を与えているのです。
仕様上の違いとして、10TOPに認定されたギターは、ヘッドストックの裏側に小さく「10」というマークが記されます。
これが10TOPであることの唯一の公式な証となります。
レギュラーグレードのモデルであっても十分に美しい杢目を持つ個体は多いですが、10TOPの個体はやはり格別で、杢の深さや立体感、均一性において、所有する喜びをより一層高めてくれます。
注意点として、この10TOPというグレードは、あくまで「ルックス」に対するものであり、サウンドの良し悪しを直接保証するものではありません。
もちろん、最高級の材が使われていること自体がギターの品質に貢献していることは間違いありませんが、レギュラーグレードのギターの方が好みのサウンドである、ということも十分にあり得ます。
513や509といったモデルにも、もちろんこの10TOPオプションは存在しました。
市場で中古の513や509を探す際には、このヘッド裏の「10」マークの有無も、ギターの価値や希少性を判断する一つの基準となるでしょう。
10TOPはあくまでオプションの一つであり、そのギターが持つ本質的なサウンドやプレイアビリティとは別の価値基準である、と理解しておくことが大切です。
PRS 513 509と他シリーズの構造的な違い

PRS CE24とCustom24の構造的な違い
PRSのラインナップの中で、特に比較されることが多いのがCE24とCustom24です。
この2つのモデルの最大かつ最も根本的な違いは、「ネックのジョイント方式」と「ネックの木材」にあります。
Custom24は、PRSの伝統を受け継ぐ「セットネック」構造を採用しています。
これは、マホガニー材で作られたネックを、ボディに深く差し込み、接着剤で固定する方式です。
ボディとネックが一体化することで弦振動がスムーズに伝わり、豊かな中音域と伸びやかなサスティン、そしてウォームなサウンドキャラクターが生まれます。
これはギブソンのレスポールなどに代表される伝統的なギターの製法です。
一方、CE24の「CE」は「Classic Electric」を意味し、その名の通りクラシックなエレキギターの製法である「ボルトオン」構造を採用しています。
こちらは、メイプル材で作られたネックを、ボディにネジ(ボルト)で固定する方式です。
フェンダーのストラトキャスターやテレキャスターで広く知られています。
この構造は、セットネックに比べて音の立ち上がりが非常に早く、アタック感が強調された歯切れの良いサウンドが特徴です。
また、ネック材に硬質なメイプルが使われることも相まって、よりブライトでエッジの効いたトーンを生み出します。
まとめると、Custom24は「ウォームでサスティン豊かな王道のPRSサウンド」、CE24は「レスポンスが早く、ブライトでモダンなサウンド」という明確な違いがあります。
見た目は似ていますが、そのサウンドキャラクターは全くの別物です。
CE24は単なるCustom24の廉価版ではなく、ボルトオン構造でしか得られない独自のサウンドを追求した、全く別のモデルとして認識する必要があります。
どちらが良いというわけではなく、プレイヤーが求めるサウンドや音楽性によって選択が変わってくるのです。
ボルトオン構造であるPRS CEとの違い
前述の通り、513や509はPRSの伝統的な「セットネック」構造を持つCoreラインのモデルです。
したがって、ボルトオン構造を最大の特徴とするCEシリーズとは、ギターとしての根幹設計が大きく異なります。
この構造の違いは、サウンドの方向性に決定的な影響を与えます。
513/509が持つサウンドの多様性は、あくまで「ピックアップシステム」によって作り出されるものです。
ギター本体の鳴りは、マホガニーネックとマホガニーバックボディによる、暖かく豊かな中音域とサスティンが土台となっています。
その豊かな鳴りを、多彩なピックアップの組み合わせで様々なキャラクターに色付けしていく、というのが513/509のコンセプトです。
対して、CEシリーズのサウンドキャラクターは、その「ボルトオン構造とメイプルネック」という構造自体に強く依存しています。
アタックが明瞭で、高音域がキラキラと響くサウンドは、この構造でなければ得られません。
ピックアップが同じであったとしても、ギター本体の鳴り方が根本的に違うため、最終的に出力されるサウンドは全く別のものになります。
もし、プレイヤーが「513/509のような多彩なサウンドバリエーション」と「CEシリーズのような歯切れの良いアタック感」の両方を求めている場合、どちらか一方を選ぶのは非常に難しい選択となるでしょう。
513/509は、あくまでセットネックの鳴りを基本とした上でのサウンドパレットの広さが魅力です。
CEシリーズは、サウンドバリエーションの点では513/509に及びませんが、構造由来のレスポンスの速さと独特のトーンを持っています。
このように、両者はサウンドメイクのアプローチが根本から異なります。
513/509は「一つの豊かな鳴りを、多彩なマイク(ピックアップ)で拾い分けるギター」、CEは「ギター自体の鳴り方がシャープで、それをストレートに出力するギター」と考えると、その違いが理解しやすいかもしれません。
PRS S2とCEシリーズの価格帯と仕様の違い
PRS S2シリーズとCEシリーズは、どちらもUSAメリーランド州の工場で生産されながら、Coreラインよりも手に入れやすい価格帯を実現した、コストパフォーマンスに優れたラインナップです。
しかし、両者の間には設計思想と仕様に明確な違いが存在します。
最も大きな違いは、やはりネックのジョイント方式です。
S2シリーズは、Coreラインと同様の「セットネック」構造を基本としています。
これにより、PRSらしいウォームでファットなサウンドキャラクターを継承しています。
一方のCEシリーズは、前述の通り「ボルトオン」構造です。
この時点で、両者は全く異なるサウンドを持つギターであると言えます。
コストダウンのための工夫にも違いが見られます。
S2シリーズでは、ネックジョイントに「スカーフジョイント」という、短い木材を効率的に繋ぎ合わせる工法を採用したり、ボディトップの美しいアーチ加工を簡略化した「ベベルドトップ」にするなど、製造工程を合理化することでコストを抑えています。
使用される木材はCoreラインと同じグレードですが、木材の取り方などを工夫しているのです。
CEシリーズのコストパフォーマンスは、元々のボルトオン構造自体がセットネックに比べて製造コストを抑えやすいという点にあります。
両者の仕様を比較すると以下のようになります。
特徴 | S2シリーズ | CEシリーズ |
生産国 | USA (メリーランド州) | USA (メリーランド州) |
ネックジョイント | セットネック(スカーフジョイント) | ボルトオン |
ネック材 | マホガニー | メイプル |
ボディトップ加工 | ベベルドトップ | アーチトップ(Coreより浅い) |
パーツ類 | SEシリーズと共通のパーツを一部使用 | Coreラインに近いパーツ構成 |
価格帯(目安) | 25万円前後~ | 38万円前後~ |
価格帯を見ると、CEシリーズの方がS2シリーズよりも一段上に位置していることがわかります。
これは、CEシリーズが単なる廉価版ではなく、ボルトオンモデルとしての独自の価値を持つシリーズとして開発されていることの表れでもあります。
S2シリーズは「Coreモデルのサウンドキャラクターを、より手頃な価格で体験したい」というプレイヤー向けの選択肢です。
CEシリーズは「ボルトオン構造ならではのサウンドレスポンスを、PRSの高品質な作り込みで手に入れたい」というプレイヤーにとって最適なモデルと言えるでしょう。
PRS SEシリーズとの品質と価格の違い
PRS SEシリーズは、513や509といったUSA製のCoreラインとは、品質、価格、そして生産背景において全く異なる位置づけのラインナップです。
SEは「Student Edition」の略称で、その名の通り、PRSのクオリティをより多くの人に、特に若い世代やギター入門者にも届けたいという想いからスタートしました。
最大の違いは生産国です。
513や509を含むCoreライン、S2、CEシリーズがすべてアメリカのメリーランド州にある自社工場で製造されるのに対し、SEシリーズはインドネシア(一部モデルは中国)にある提携工場でOEM生産されています。
生産拠点を人件費の安い海外に移すことで、大幅なコストダウンを実現しているのです。
これにより、価格帯には大きな差が生まれます。
513や509がCoreラインとして60万円以上の価格帯に位置するハイエンドモデルであるのに対し、SEシリーズは10万円前後から購入可能なモデルが中心です。
もちろん、価格差は品質や仕様の違いにも直結します。
USAモデルでは、厳選された最高級の木材や、自社開発のハイグレードなピックアップ、ハードウェアが惜しみなく使用されます。
また、熟練した職人による精密な組み込みや仕上げは、まさに芸術品と呼べるレベルです。
一方、SEシリーズはコストを抑えるために、木材のグレードやパーツの仕様がUSAモデルとは異なります。
しかし、ここで強調したいのは、SEシリーズが単なる「安かろう悪かろう」のギターではないという点です。
設計はPRS本社が行い、生産管理にもPRSのスタッフが深く関わることで、価格をはるかに超える高い品質を実現しています。
そのため、初心者には十分すぎるクオリティを持つだけでなく、中級者以上のアマチュアギタリストがライブやレコーディングで使用するにも耐えうる、非常にコストパフォーマンスの高いギターとして世界中で高い評価を得ています。
近年では、SEシリーズ独自のモデルや、有名アーティストのシグネチャーモデルも多数ラインナップされ、単なる廉価版という枠を超えた、一つの独立した魅力的なシリーズとして確立されています。
513や509が持つ究極の多機能性や最高のクオリティを求めるのであれば、選択肢はUSAモデルに限られますが、PRSギターの魅力を気軽に体験したい、あるいは改造ベースとして自分好みの一本を作り上げたいという方にとって、SEシリーズは最高の選択肢となるでしょう。
まとめ:PRS 513と509の違い、自分に合う一本を見つけるために
- PRS 513は5つのピックアップで13種類のサウンドを出力できる多機能モデルである
- PRS 509は513のコンセプトを継承し、より直感的に操作できる9種類のサウンドを持つ後継機である
- 513と509は共に25.25インチという、PRSの標準よりわずかに長いネックスケールを採用している
- Custom24はシンプルな操作性で王道のPRSサウンドを追求した、ブランドの顔となる代表モデルである
- CEシリーズはメイプルネックのボルトオン構造により、歯切れが良くブライトなサウンドが特徴である
- S2シリーズはUSA工場生産ながら、製造工程の工夫で価格を抑えたセットネックモデルである
- SEシリーズは海外で生産される、コストパフォーマンスに優れた入門者にも最適なラインである
- 10TOPはモデル名ではなく、ボディトップに使われる美しい杢目を持つ木材のグレードを示す等級である
- 513や509は、多彩なシングルコイルサウンドを1本で完結させたいプレイヤーにとって強力な選択肢となる
- 仕様や価格だけでなく、最終的には自身のプレイスタイルや出したい音を基準にギターを選ぶことが最も重要である